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2011.12.31 Sat
またも久々な!
一番下の続きからどーぞ!

冬休み中にあと1・2話足します。
紙原稿を打ち直ししているのですが昔の自分て今以上に感覚で書いていたのだな…と思いました
あと最近のテ○ンドー事情わからないっス!!あくまで当時の感じで!

「テコン」
挨拶と礼を合図に、稽古の時間が始まる。
副師範は、賞状は真新しい帯を手にして事務所から出てきていた。誰しもが分かる、昇級審査の結果が発表されるのだと。
「名前を読んだら前へ」
審査を受けた者たちが順に名前を呼ばれていく。もちろん、級が低い方からだった。

「佐々琢磨」
「はい」
琢磨は列の外側へ出てから副師範の前へと歩み寄った。
「級位認定証。佐々琢磨、六級」
副師範の手にある帯の色から期待はしていたけれど、「六級」と読み上げられた時にこそ実感と嬉しさがこみ上げた。
やった!また飛び級だ。
「はい」
返事をしつつ、笑みが抑えられない。喜ぶと同時に肩の力が抜けた。
琢磨は副師範の前から、隣で六級の帯…緑帯を持って待ち受けている星秀へと移動する。

副師範は琢磨へ賞状を渡し副師範の隣に並んだ黒帯が昇級者に新しい帯を締めるという役割を担うが、今日は稽古に参加している黒帯が星秀と玲二しかいないために年長である星秀がその立場となった。
「おい、その帯取れ」
星秀が顎を上げて琢磨に小声で言った。
琢磨はどうしても笑い止むことが出来なかった自分をいけね、とやっと制し締めていた黄帯を外した。
正面から、星秀に帯を巻いてもらう。手こずっている星秀の手元を見て思わず含み笑いを漏らすと、偉大な先輩に睨まれた。慌てて琢磨は表情を戻す。

入門した費に椎名に帯を締めてもらったことを思い出した。
(椎名さん、今日も来ないのかな)
ちらっと考えている間に星秀は琢磨の帯を結び終わり、次の昇級者の帯を用意し始めていた。

星秀と目が合う。祝福している気配は伝わって来ず、そもそも星秀の目は笑ってもいない。飛び級なんか出来て当然だろう、と言わんばかりの目つきである。琢磨は慌てて顔つきを改めようとする。

星秀が黒帯を取ったのは十四の歳で、テコンドーを始めて以来ほとんど間を置かずに昇級を続けていたという話を琢磨は思い出した。むろん、星秀自身ではなく他の人間から聞いたことである。
ふと列を振り返ると、琢磨の目の前に整列していた玲二が自分の黒帯の上辺りで小さくピースサインを振って見せた。
琢磨は思わず再び満面の笑みを浮かべそうになってしまったが、背後の星秀の仏頂面を思い出し慌てて持ちこたえた。

「じゃあ、昇級した人は前の帯と賞状をロッカーに置いてきてください」
副師範の声に、琢磨は更衣室へと向かった。足取りはやはり軽い。
ドアを開け、賞状と黄帯を床へ置いた。自分の腰へ巻かれたばかりの新しい緑帯と、手元を離れた黄帯を見比べる。
腰の帯を一度外して自分で結びなおそうかと思ったが、止した。結び目を直すだけにし、姿勢を正す。
(よっしゃ!)
琢磨は思い切り拳を握り締めてガッツポーズをとってから、笑い顔をなんとか平静の状態に戻し、更衣室のドアを開けて列へと戻った。

マッソギとはいわゆる組手である。
十級から昇級すると、防具を買うことを許される。
手防具、足防具、すね当てやファールカップ。琢磨も、黄帯を貰った日に防具を一式買い揃えた。それら全部を、その日は枕元に置いて眠った。

トゥルで大会に出場できるのは黄帯からだが、一方マッソギの参加資格は緑帯からと決められている。
(まだ自分には関係ないことだな)
稽古でマッソギの練習に出られるようになってからも琢磨はそんな思いから、今ひとつ身を入れることが出来ないでいた。
ミットだけを蹴っていた頃と違い、人を蹴らなくてはならないことに別段抵抗はない。しかし、それはつまり自分も蹴られるし殴られるいうことなのだ、そう気付いたときの衝撃は実は強烈だった。
また、全国大会の時期が近づいている。
今年の開催日程は去年と変更されたので、琢磨も観に行けそうだった。
最近は稽古も、大会向けの練習が主となっている。

今日もマッソギの練習が入った。
最初は二人組となって、あらかじめ決められた動作で交互に、攻撃したりそれを受けたりを繰り返す。
練習時間が終わりに近づくと、試合形式のチャユマッソギとなる。
道場全体を使い、何組かが同時に対戦するのだ。今日は三組ずつとなった。
「琢磨入って」
副師範が最初に琢磨の名前を呼ぶ。
「はい」
返事をして前へ出た。
相手も適当に選ばれるが、大抵は帯順で組み合わされる。
組に入らない、残りの道場生たちが壁際に寄り琢磨たちをぐるっと取囲む。
琢磨はこの、四方から眺められている感じがどうも苦手だった。
「チャリョ、キョンレ」
「テコン!」
三組が、副師範の声に従い同時に相手と礼を交わす。
「シージャ」
今度は副師範の合図を皮切りに、三組は動き出す。フットワークを踏む者、相手の動きを伺いながらそろそろと歩を進める者。

最初の攻撃の一手として何を出すか?琢磨はいつもそのことで迷う。
「うわっ、と」
そしてその間に相手から一本既に入れられたりする。考えすぎなのだ。
一回目の対戦を終えて、琢磨はマッソギの組から出た。次の組の見学をする。
対戦中の者たちが熱中しすぎて壁に激突したりしないよう注意する。場合によっては隅に寄って来過ぎた彼らの体に手を当てて道場の中央へ戻したりしなければならない。
「あ~、気持ちわる…」
琢磨の呟きを聞きつけて、隣に立っていた玲二がくすっと笑う。
汗をかいたあとの防具は身につけているのが実に気持ち悪い。しかし外すのが面倒だ。諦めて、今行われているマッソギに目をやった。
星秀がいる。相手は赤帯。こう言っては悪いけれど、全然格が違う。星秀の動きは、真似できるような気が全くしない。
まるで全ての人々に見せ付けているような、それでいて威力もあり目標を的確に撃つ蹴り。トルリョチャギからパンデ。琢磨がぜひ習得したいと思っているコンビネーションの1つである。それは、琢磨をこの場所へと連れてくる原因になったテレビ番組で観て以来、ずっと思っていることだ。
「なんか、飛ばしてますね~星秀さん。すっげー」
玲二が独り言のように話しかけてくる。

マッソギ、二周目。
「琢磨、入れ~」
副師範がまた琢磨を円の中へ呼び戻した。
「はい」
自分の返事が最初よりも疲れ気味なのが何となく分かった。
副師範は少しの間迷っていたようだったが、
「じゃあ、相手に星秀」
「イェ」
打てば響くような、先輩後輩の呼びかけと返事であった。
(げっ)
よりによって、相手に星秀。「試合の時はいつも全力を」という副師範の教えを律儀に、いやさ馬鹿正直に守っている琢磨は実は一周目終了時点で結構限界気味であった。全力を出し切る寸前だ。ついてない。
星秀はというと、いつものように恐ろしい目付きでこっちを見ている。眼鏡を掛けていない時のあいつに俺は見えてないんだと思ってはみてもやっぱり怖い。ましてやマッソギの対戦相手としてなんか。

「シージャ」
合図と同時に星秀が動く。その動きを見て、(やっぱり、全然疲れてもいないよ星秀)と緊張が過ぎてもはやぼんやりし始めた頭で琢磨は考えた。
二人は目線を結ぶ。マッソギの時は相手の目を見ること、とされている。
星秀は勿論マッソギには慣れ切っているだろうが、琢磨は人の目を見つめ続けることには未だに抵抗があった。油断すると、視線はすぐに足元へ落ちてしまう。
「おい、よそ見すんなよ」
正面で星秀が呟く。マッソギ中、琢磨は色んな相手から注意点を指摘されることがよくあった。ただし星秀のようにではなく、もっと柔らかい言葉でだが。アドバイスとしては一本で蹴りを止めるな、連続で攻撃しろとか、「ここを蹴れ」とまで言われる場合もある。

様子見に、琢磨は試しにジャブを出してみる。想像していたことだがそれ以上にあっさりとかわされた。
「琢磨―、手より足の方が長いんだぞ!」
途端に副師範の声が飛ぶ。
琢磨は蹴りよりも頻繁に、手の突きを出してしまう。バテている時なんかなおさらだ。
しかし副師範の言う通り、リーチは突きは蹴りより短い。当たるはずがない。
「わ!」
チッ、という呼吸音と共に星秀の横蹴りが来た。少し遠かったので琢磨は事なきを得た。
しかしもう、どうしていいのか分からない。星秀には隙もない。下手な攻撃をすればカウンターを食らって終わりになりそうだ。
琢磨は両手のガードを上げ、フットワークを続けて星秀の目を見ようとする。
試しに攻撃を仕掛けても、よくて避けられるか、最悪は当然倍返しを食らうだけだ。
そう思っていると、結局のところ何もできない。
突然星秀が一歩踏み込んできた。
(あ、やばい)
食らった。技としては一番基本的な回し蹴りで打たれたのだった、それも上段で。
上段の打撃は試合で換算されるポイントが高いし、やられた、という精神的打撃はもっと高い。人の頭部を攻撃するのは、普通の人間が持っている警戒心を考えればどれだけ難しいのか分かることだ。
それでもヒットを許すなんて、自分がどれだけ無防備だったのかと不甲斐なくなる。
琢磨は星秀の目を追った。星秀が言う。
「蹴れよ!」
今の星秀の目は、確かに自分の目を見ていたと琢磨は確信する。近視らしい裸眼の目で捉えるぼんやりとした対戦相手としてではなく、俺に向かって言ったんだ、と思う。

悔しい。星秀は一瞬、俺を見下ろした。
星秀は、黒帯相手のマッソギの時は飛び蹴りを多用する。まるで一瞬たりとも地に足を着けていたくないかのように。琢磨は、正面の星秀が飛ぼうとする気配を全く見せないことに落胆した。自分は、よほど手加減されているのだ。
パンデを避ける。
対戦中の星秀を観戦者として見ているときにはさほど思わないが、一転自分がそのパンデを受ける立場となってみるとその蹴りの勢いと恐ろしさは強く実感される。

パンデは一度蹴り手がこちらに背を向ける体勢を取るため、簡単に避けられそうに思える。
しかし実際はその速さと、蹴り足が降りてくる意外な角度に対処しきれずどうしても押されっ放しとなる。
頬に危うく蹴り足を受けそうになる瞬間の恐怖と言ったらない。

琢磨は再び星秀の蹴りを受け吹っ飛ばされた時、やっべえ壁に当たる、と一瞬目を瞑った。
しかし背中に予期していた衝撃は来なかった。
誰かが受け止めてくれたらしい感触があったが、振り返ろうにも床に背中までずり落ちた体勢では首がちゃんと後ろに回らなかった。
「…すいませっ」
支えてくれる手の主が誰なのか確かめることもならないまま、琢磨は再び星秀にむかうため立とうとする。言葉の本来の意味とは逆に、礼のつもりで言った。
「あの、大丈夫ですか!?」
背後から返ってきたのは玲二の声だった。
琢磨が向かう先には、星秀が構えを解いて待ち構えている。
やられっ放しは悔しい。だけど本気の星秀は怖い。それに認めなくないけど俺は疲れている。
そんなあれこれが入り混じって、今の自分はどれだけ物凄い顔をしているんだろう。
でも目が悪い星秀には俺の表情は絶対に分からないんだ。それは救いだよな、と琢磨は思う。

琢磨は、瀬田や桧垣と椎名のように、稽古の後の自主錬を星秀と共にしたことがない。
だが星秀の助言はいつも稽古中、突然投げられる。はっとするような気付きを与えてくれる。

これまで、助言と言うにはきつ過ぎるようなことを星秀は琢磨に言い続けてきた。
彼の言うことは確かに的を得ている。琢磨の弱点、改善点を後から思えば感心するほど正しく言い当てる。
しかし琢磨は星秀の技術には心から感嘆できるのに、その助言には副師範や椎名たちから言われた時ほどは素直に聞くことができないのだった。
歳も近く、琢磨が現在四苦八苦していることはとうの昔に克服してしまっている星秀。
反感もある。だが、いつか自分を認めてほしい。琢磨の星秀に対する感情は複雑だった。

 

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